Legend Story -the heir of the
world-
外伝 彼方に消えた声
(SE2149)
Section1 アレクサンドリア王国立召喚術師学校入学試験
イクセリオン、そこは主にイリステンドと呼ばれる種族のみで構成された小さな世界である。伝承と呼ばれる文章では、イリステンドは無力な人間と呼ばれている種族のことだ。ただ、現在では無力とは言い切れない。世界救済の後、イリステンドには『召喚術』が与えられ、強力な魔法が使える種族となっている。
魔法とは、魔力を使用することで発動する物理法則を無視した超常現象のことである。エルフが使う魔術から、シノビが使う忍術、剣術といったものも魔法の内に含まれる。
その中でも、召喚術というのは世界が六つに分かれた時に、イリステンドにのみ与えられた魔法だった。
召喚術は他の五つの世界の住人と契約し、イクセリオン世界に呼び出したり力を借りたりすることが出来る特殊な魔法である。だが、この魔法はイリステンドであれば誰でも使うことが出来るわけでもない。召喚師としてしっかりと教育を受けた者のみが使える。
召喚師となるためには、イクセリオンの中で最も入学が難しいとされている学校の一つであり、唯一の召喚師への道となったアレクサンドリア王国立召喚術師学校、通称召喚術師学校で六年間学び、召喚師試験を受けなくてはならない。
青雲の月はその召喚術師学校の卒業試験、召喚師試験があると同時に入学試験も行われている。毎年、様々な地方からこの学校へ入学するためにやってくるのだ。そして、合格者は毎年僅か五十人余りしかいない。
入学試験には年齢制限があり、浪人が許されない一発勝負。一律に十歳の子供たちがイクセリオン中から集まり、合格か不合格に振り分けられる。非情に聞こえるかもしれないが、イクセリオンの子供のほとんどが十歳で将来を決定することを考えれば、この試験も人生を決定する節目としては妥当なのかもしれない。
「あ〜、もう無理無理!
あんな問題、解けるわけないでしょっ!?」
太陽は南へ高く上がり、夏の日差しが照りつける中で、長い茶髪をポニーテールに結んだ少女は相当に憤慨した様子で中庭を歩いていた。
この学校は地理上の関係でそれほど暑い地域ではないので、日陰に入ってしまえば真夏でも暑さにストレスを感じることはない。それでも日光に照らされていれば汗も落ちる。額から汗をにじませた少女は急ぎ足で、ぽつぽつと植えられている木陰へと向かっていた。
今日は召喚術師学校の入学試験。時間は午前中の筆記試験が終わって、昼休みを迎えたところだった。受験生たちはそれぞれに昼食をとるために、食堂へと向かっている。
学校自体は夏の休暇に入っているので、在校生はほとんどが里帰りしてしまって学校は閑散としていた。
皆が食堂へと集まるこの時間に、わざわざ中庭にいる人間などいない。そう思って、少女は誰とも顔を合わせたくないのでここに来ていた。
「あぁ〜、時間も足りなかったし、計算も間違えたし・・・・・・もう終わりだぁぁぁ」
独り言にしては大きすぎる声量で愚痴をぶちまけている自覚はある。しかし、勉強した努力と裏腹に、あまりにも試験の手応えが悪いので、愚痴を叫ばずにはいられなかった。
どうせ周りには誰もいない。誰に迷惑をかけることもない。恥ずかしいこともない。
しばらく少女は溢れる感情にまかせて怒りの言葉を紡ぎ続けた。だが、一息ついてみると声は一気にしぼんで、怒りは不安へと変わっていく。泣いて逃げ出してしまいたい。
「これじゃ、せっかく周りの反対を押し切ってまで、町を出てきた意味がないよ・・・・・・どうしよう・・・・・・」
「そんなんだったら、帰ればいいのに」
不意に投げかけられた声は、とても落ち着きのある透き通ったものだった。けれども、少女はそれを落ち着いて聞く余裕などはなかった。
驚きで心臓が縮むような感覚の後、少女は咄嗟に辺りを見渡す。誰もいない。当然だ。誰かがいると分かっていれば、こんな恥ずかしい独り言を言おうとは思わない。
まさか、と思って恐る恐る上を見上げる。案の定、先程までもたれていた木の上から、見覚えのない少女が自分を見下ろしている。
頭の中が羞恥で真っ白になった。急激に顔を真っ赤にさせて、訳も分からず目の前の木を力任せに揺らす。すると、もともと華奢だった木は大きく揺れて、何枚の葉とともにバランスを保てなくなった少女が上から落ちてきた。
落ちてきた少女は青髪蒼眼。その顔に一切の動揺もなく、見事に一回転をして音もなく着地した。
「ごっ、ごめんなさい。本当にごめんなさいっ!びっくりしちゃったもんだから、ええと」
とにかく謝ろう。必死に手を合わせて頭を下げるしかない。どこの誰だかも知らないが、悪いのは明らかに自分だ。
文句の一つや罵声でも浴びせてくれれば、気も楽になったかもしれない。しかし、青髪の少女からそれらは全くなかった。ただ、無言で睨みつける彼女の威圧感は、言葉以上に怒りを表現しているように感じる。
何度も謝罪を繰り返していると、下げた頭の上方からは小さな溜息が聞こえた。
「別にいい。こっちも聞いていたからね」
ゆっくりと顔を上げてみると、少女からは先程の威圧感が消えている。彼女は視線をそらしながら、呆れ顔を浮かべていた。一応許しがもらえたことに、ほっと息をつく。
「うぅ。えっと、私はフェーネ。フェーネ・フロリスだよ」
「フロリス・・・・・・ノエルの?」
フェーネは苦笑いをしながら、顔を曇らせる。
フロリス家は貴族の中でも中流に位置する貴族で、学校から一番近くに位置しているノエルという町を発展させてきた家系だ。現在でもフロリス家は代々ノエルの市長を継いでいる。今やイクセリオンの五大都市の内の一つを治める貴族とはいえ、フロリス家はお金がない。貴族が多く住まう王都から離れた、元は田舎町のノエルを治める貴族であることから、フロリス家は貧乏貴族、田舎貴族と評判だった。だからといって、平民からは貴族という身分だけで一線を引かれる。フロリス家という肩書きは、貴族からも平民からも距離を置かれるのだ。
あるだけで嫌な思いをする肩書きなんて、ない方がマシなのに。
嫌な思い出が頭の片隅を過ぎったところで、フェーネはそれを振り払うように頭を振る。
「で、あなたは?」
フェーネは少女の顔色を窺いながら尋ねた。
ふと、目を合わせた少女の顔は無表情で凍り付いていた。まるで人形のような彼女に、フェーネは思わず怯まずにはいられない。ぎりぎりで後ずさりしそうになった足を踏みとどめる。
確かに先に失礼なことをしたとは思う。だが、こちらは謝った上にしっかり名乗ったにも関わらず、名前も教えてくれないのは一体どういう了見だろうか。
流石にここまでの態度をとられる覚えはない。貴族たるもの、名前くらい自信を持って言えないとは何か後ろ暗いことでもあるのだろうか。
沈黙し続ける少女に、フェーネは段々腹立たしくなってきた。思い返せば、彼女の一言目は「帰ればいいのに」だ。あちらはあちらで失礼極まりないではないか。
こちらを見つめるだけの少女の返答を諦めかけた時、彼女はおもむろに口を開いた。
「・・・・・・セレナ・ヘルウェンディ」
なんだ。ちゃんと言えるじゃないか。
フェーネは拍子抜けしながら、頭の中で彼女の名前を繰り返す。ヘルウェンディ、聞いたことのない名前だった。
フロリス家は中流貴族ではあるものの、上流貴族に混じって会合に参加しているだけあって、フェーネは昔から主要な貴族の名前は把握している。
受験に来ていた子供もだいたいどこの誰かは分かった。名前を聞いても覚えがないということは、セレナは下流貴族なのだろうか。それで、恥ずかしくてなかなか言えなかったとか。
ならば、この警戒心の強さも頷ける。そう考えると、ちょっと微笑ましい。
フェーネはまるで仲間が出来たような心地がした。
「セレナ、か。うん、それでね。さっきは帰ればとかなんとか言ってくれちゃったけど、私にも野望ってやつがあるんだ。だから、この試験には意地でも落ちれないの。そういうことだから、私絶対に合格するっ!
合格したら、また会おうね!」
下級貴族の出身だとしても、この子も頑張ってここに来ているのだろう。負けてはいられない。
フェーネは吹っ切れた顔をしながら、セレナに別れを告げた。
* * *
一体、何なんだ。
セレナはフェーネ・フロリスと名乗る少女の後ろ姿を見送りながら、気づかれない程度に溜息をついた。いきなりやって来て、落として、謝り倒して、一方的に喋っていなくなる。
コロコロと表情を変えて去っていく様は、まるで嵐かつむじ風かのようだ。あれで、自分と同い年、しかもフロリス家の一人娘だというのだから信じがたい。
午前中の筆記試験は、フロリス家の一人娘が言うほどには難しく感じなかった。最難関といわれる上級学校と聞いていたが、退屈な問題の羅列にしか見えず。わざと一問だけ、期待されている解答とは違う答えを書いたが、合格に差し支えるほどのものではないはずだ。
もう一度木に登るのも面倒なので、木にもたれかかるようにして座る。そうして綺麗すぎるくらいに晴れた夏空を見上げながら、また一つ溜息をついた。
まるで、時間が止まっているような感覚がする。見知らぬ異世界へ迷い込んだ感覚、という方が正確かもしれない。ここはどこなのかという疑問が頭を過ぎり、問いても意味のないことだと、即座に掻き消した。
「テイア」
ぽつりと、誰もいない中庭で呼びかける。
テイア・デルフィニウム。故郷を出て、流れ着いた第三都市ブリューネルで、物好きにも私を引き取った二人目の養母。彼女がこの学校への入学を強引に勧めてきたのが半年前のことだった。
本来、私が召喚術師学校に入学することに意味はない。召喚術はとうの昔に修得済みだった。
召喚術師学校に行かずとも、イリステンドの血を持ち、知識と技術を修めれば誰にだって召喚術は使える。召喚術師学校でしか召喚術を学べないなんて道理は、貴族が召喚術を独占するために作り上げたエゴにすぎない。もっとも、セレナにはそのエゴに口出しをする気はないが。
ともかく、召喚術師学校の存在意義は、セレナにとっては無に等しかった。
「何故、今更」
―――あなたがまだ知らない、大切なものを見つけられるわ。あなたなら、きっとね。
こんなことを言って、お節介なテイアは私を送り出した。言われた言葉の意味も理解できぬままに街を追い出され、未だ理解できそうな気がしていない。
それでもここにいるのは、召喚術師学校に来る個人的な理由が一つだけあるからだった。
「遅い。けど、やっと動き出したね」
学校内に存在する他とは異質な力を捉える。常人ならばここまで敏感に感じ取ることは出来ないはずだが、研ぎ澄まされたセレナの感覚ははっきりとそれを見つけた。強大であるはずなのに、抑圧された魔力反応。その持ち主が、セレナ自身がこの学校へ赴こうと思った理由だった。
腰を上げ、より一層集中する。そして、思わず呆れとは違う溜息が小さく漏れた。
爽やかな夏の風が、中庭の草木を揺らしていく。
* * *
筆記試験が終わり、受験生達が会場を出て行く様を見送る。皆が食堂へと移動し、会場に残る受験生がごく僅かになったところで、レイド・ジャスティスはようやく大きく息を吐き出した。
貴族ばかりの受験生達の中で、レイドは明らかに目立つ存在だった。イリステンドは通常茶髪だが、レイドは聖四王族の一つ、ジャスティス一族だと自ら主張する鮮やかな金髪だ。そのせいで朝からしきりに声をかけられ、どこにいても視線を集めている。おかげで、レイドにとって最難関だったでだろう筆記試験が始まる前に余計な疲労を蓄積する羽目になった。筆記試験を終えた現在に至っては、脳裏に限界の文字が見え隠れする。
アレクサンドリア王国では、人々は平民と貴族という身分に大きく二分することが出来る。対して、聖四王族は身分という枠組みとは別次元に存在する。いっそ、身分の上下がはっきりと決まって明文化でもされていれば楽なのだが、まったく違う世界で特権を持つ者同士のため、貴族は扱いにくく干渉したくないのが本音だった。
「本当に嫌になる」
誰にも聞こえないように、レイドは机に突っ伏しながら呟いた。おもむろに、長くなっていた前髪を摘み上げて眺める。
いつも通り、見事な程に鮮やかな金髪だ。ジャスティス一族の血を持つ者は金髪と水色の瞳を持つことが、イクセリオン中に常識のように知られている。しかし、一族皆がそういった容姿であるわけではなく、血が薄くなるに従って他より少し明るい色の茶髪にしか見えない者や、灰色の瞳の者も多い。逆に、完璧に金髪に水色の瞳という容姿を持つ者は少ない。少ないはずなのに、レイドはその少数派に該当していた。
ジャスティス一族に詳しくない一般人からすれば、綺麗な容姿にしか見えない。だが、レイドにとっては目立つ上に、他人と同じように生きてはいけないのだと、生まれながらに束縛、もはや呪われているようにさえ思う。
まったくもって忌々しい。この髪を引きちぎってやりたいと思うことも稀ではない。
「・・・・・・カシスの所に行くか」
今更どうすることも出来ないことを恨んでも仕方がない。さっさと昼食をすませてしまわなくては、午後からの試験に差し支える。
とはいえ、食堂に行ったところでまた珍獣扱いされるのは分かっているので、始めから雑貨屋で手伝いをしている従妹の元へ行くつもりだった。レイドは一族の中にも親しい者はほとんどいないが、従妹のカシスはそこそこに話をすることが出来る仲だ。
レイドは筆記試験の会場であった教室から出ると、階段を下りて外に出た。ここからならば中庭を抜け、外庭に出るルートで雑貨屋を目指した方が早いだろう。
足早に廊下を抜けて中庭に出ると、爽やかな夏風が歓迎してくれた。魔学器のおかげで教室の中はそれほど暑くはなかったが、自然の風はもやもやとした気分を払拭してくれる。『それ』が尾けられているという事実を気づかせてくれなければ、多少なりとも不機嫌を解消できたのに。
ここいるのは貴族ばかりなのだから、恐らく尾行しているのは貴族だろう。しかし、僕自身のことは知らないにしても、見ればジャスティス一族であることは明らかであるはず。そして、ジャスティス一族が剣の名門であることは、イクセリオンで暮らしている者ならば知らない者はいない。喧嘩を売っても勝ち目がないことくらい、馬鹿でも分かるはずだ。
用事があるならさっさと話してほしいと思って一度振り返ってみるが、慌てて隠れる様が見えたので尾行を続ける気らしい。
レイドは中庭の端まで歩き、校舎を目の前にしてくるりと振り返る。相変わらず木の陰に隠れようとするが、こちらから話しかけた。
「僕に何か用でも?」
レイドは当たり障りのない言葉を選び、不満を押し殺しながら少し大きめ声で尾行者へ呼びかけた。
これで出てこないなら一気に撒く。所詮一般人の貴族相手に、幼い頃から訓練を受けてきた人間が撒くなど容易い。
流石に諦めたのか、陰から出てきたのは二人組の貴族だった。服装から見て、あまり上流ではない貴族だと推測できる。とはいえ貴族である以上、関わりたくないのに変わりはない。
「君はジャスティス一族の人間だとお見受けするが?」
心底うんざりとした。僕に構うなんて、一族に関係しない理由であるはずはないが、それでもうんざりな気分だった。今からでも撒こうか。
レイドの後方には校舎の壁がある。普通ならおよそ飛び越えられる高さではないが、軽く助走して魔法を使えばなんとでもなる高さだ。しかし、いくら向こうに数の利があるとはいえ、貴族の子供相手に背中を見せるのも癪だった。剣で脅すという手もあるが後々問題になりそうだ。
「だからな、ジャスティス一族の方だとお見受けするんだが、それは確かかな?」
「ああ、そうだけど」
「ジャスティス一族なら、なにかコネでもあるんだろ?
次の面接の内容だけでもいいから教えてくれないかな?」
ジャスティス一族は召喚師を従える召喚師連盟の重役にも入り込んでいる上、召喚術師学校の現在の校長は一族の人間なので、二人がこのような発想に及ぶのも理解できなくはない。だが、こちらも毎日剣術しか頭になかったのに、一年間必死に勉強を強いられてきたのだ。コネがあるのなら、そんな苦労はしていない。
「コネって、そんなものない。面接の内容も知らない」
「しらばっくれんじゃねえよ。ジャスティス一族がこんなところにいる時点で普通怪しいってもんだ」
痛いところだ。ジャスティスは剣の名門であり、アレクサンドリア王国の軍も敵に回したくないと公言するイクセリオントップの戦闘集団。剣一本で敵を圧倒する脅威は召喚術など不要なほどの力を持っている。レイドがここにいるのはどう見ても不自然だと誰もが思うはずだった。もちろん、レイドにも理由があってここにいるわけだが。
「僕に構っている暇があるなら、次に集中すればいいだろ」
「これが次への備えだからな」
にじり寄る二人に、レイドは勘弁してくれと思った。これが身内ならば問答無用で斬り飛ばしている。
思わず腰の剣へと手を伸ばし、指先が触れたところで我に返ってそれを止める。感情的になって剣を抜けば、戦闘の心得など微塵もなさそうな二人は大怪我ではすまない。面倒なことになれば、ここに来た意味がなくなってしまう可能性がある。
状況の打開に悩んでいる時間を少しでも稼ごうと後退っていたせいか。やがて、レイドの背中に校舎の壁が当たった。
「もう後はない。さっさと諦めろよ」
剣を抜かなければいいか。
レイドはやむを得なく剣の柄を握ったところで、不意に強い風が吹いた。レイドは咄嗟に片目を閉じたが、微かに見えたのは青い風が二人を吹き飛ばしている光景だった。
あまりにも突然のことに、唖然とする。状況を把握できたのは、風が止んで二人組が地面を転がっているのを確認した時だった。青い風の正体は人間だ。ショートと言うには少し長い、自分よりも珍しいかもしれない青色の髪。背はそれほど高くはなく、レイドよりも小さい少女。後ろ姿からでは彼女がどんな顔かも分からない。けれど。
この子は、強い。
幼い頃から一族の中で訓練を受けてきたのだから、ぱっと見るだけでもどれくらいの実力を持っているかは分かる。分かるというよりは漠然と、瞬間的に感じるのだ。
その人の持っている魔力の強さ、質から発せられる圧迫感。計り知れない強さの源泉を。
「なんだ、お前は!
僕らを誰だと思って・・・・・・!」
彼女は聞く耳持たずといった様子で、気だるげに右手を動かす。その緩やかな手の動きと、呟くように紡いだ言葉に呼応するように風が動く。彼女の足下に出現した魔法陣からは光が溢れ、薙いだ手の軌跡に炎の弓が現れる。左手で引けば燃え上がる矢が現れ、ためらいなく二人組の足下へと放った。
「誰かなんて興味ない。けど、早く行った方が身のためだよ」
「いっ、今のは」
「魔法は見るの初めて?というよりは、向けられたのが初めてか。一発くらい記念に燃え尽きてみる?」
淡々とした声は普通の脅し以上の効果を二人に与えたらしい。すっかり萎縮した二人組は体を震わせ小さな悲鳴を上げて、ふらつきながら逃げていく。
彼女は小さくため息をつきながら、壁に張り付いたままで呆然としていたレイドへと振り返った。
「君は?」
なんとか絞り出した声はあまりに無様だったが、レイドはそんなことに構う余裕はなかった。彼女はそんなレイドに笑うこともなく、ただじっとレイドを見ていた。
彼女の綺麗な青の髪も珍しいが、それ以上に惹かれるのは深い蒼の瞳だ。温度を感じさせない、凍り付いた瞳。不思議と恐怖は感じない。どちらかといえば、微風で髪が揺れる様が、彼女の不思議な雰囲気を引き出し、神々しさに似たものさえ感じた。
「望んでいなくても、必ず運命はそれを追いかける」
「え?」
ただ呆然としていたレイドは、彼女の言葉に反応しきれないまま、歩き去る彼女の後ろ姿を見送った。
「一体、何者なんだ・・・・・・?」
望んでいない?誰が、何を。彼女とはもちろん初対面だったはずなのに、まるで見透かしたような言葉だった。たとえ、ジャスティス一族だということが分かっていたとしても、ここまで核心を突いたようなことを言えるだろうか。
風が不穏にレイドの頬を撫でる。それが知らせるものは一体何なのか、レイドには分からない。
ただ、午後の面接試験集合時刻五分前の予鈴が学校に響き渡るまで、レイドはその場から動くことはなかった。
その後、すぐにレイドは彼女が何者なのかを知ることになる。


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