Legend Story -the heir of the world- 

第壱章 平和な世界イクセリオン -Peace is not happiness-
 Section1 アレクサンドリア王国立召喚術師学校卒業試験


   *   *   *


 会場は魔法障壁が張られている屋外リングで、形状は王都にある闘技場と同じだった。試験を行うリングを囲むようにして見下ろす観客席には、 何人もの学校の教師や召喚師連盟の役人が座っている。他にも、来年受験することになる五年生達が試験の様子を見守っているようだ。
 卒業試験の第一試験、実技試験のルールは至って単純明快で、課題とされた魔物を倒すというそれだけだった。
 わざわざ闘技場のリングで行うのは、貴族としての習わしというのと、見習い召喚師が昇格するための課題である王都開催の闘技大会を意識してのことらしい。 ただし、王都の大会は人間同士の一対一なのだけれども。

「リーダー、セレナ・ヘルウェンディ、フェーネ・フロリス、レイド・ジャスティスの三名です。試験内容を確認しますが、班ごとにレベルを設定し、魔物を放ちます。それを三人で協力し、撃破してください」

 召喚師には個人それぞれにランクというものが二つ存在する。一つが魔力ランク、もう一つが召喚師ランクだ。
 魔力ランクは名の通り、魔力の強さに応じて決まる。魔力は鍛えても強くなったりはしない才能的なものであるため、学校に入学した際に決まってしまう。 ちなみにセレナは最も高いと言われる史上初のホワイトクラス。フェーネはその下のイエロークラス。レイドは更にその下のグリーンクラスだ。
 ただし召喚師としての実力は、魔力が全てではない。よって、実力を表すのが召喚師ランクだ。E−からA+まで十五段階である。
 召喚師ランクは第四学年生の試験で初めて決定し、それ以後功績が認められると少しずつ上がるため、正式に召喚師となっていなくてもランクはつけられている。 この召喚師ランクで召喚師連盟に所属する召喚師の実力を順位づけることも出来るということだ。そして、試験ではその班にいる人間の召喚師ランクを見て、対戦相手を決められる。

「それでは・・・・・・」

 試験官が相手の名前を告げる前に、魔物を解放するゲートが吹き飛ぶ音と大気を振るわせる咆哮が放たれるのは同時だった。

「なによあれ〜〜〜!!」

「ドラゴンなんて、聞いてないぞ!」

 ゲートを破って出てきた魔物の姿に会場が騒然とする。それもそのはずで、その魔物は生物最強種族の一つと呼ばれるドラゴンだ。 緑の巨体に鋭い爪と牙、大きく広がる翼。凶悪そうな目で睨まれるだけで、常人ならば足が震えて腰を抜かしてしまうだろう。 実際そうなっている生徒達が観客席にはたくさんいるようだが、自分たちはそうしているわけにはいかない。仮にもプロの召喚師になろうとしている身だ。 どんな相手にも怯んでいたら、命に関わる。
 と、色々考えを巡らせてみたところで、そこまで焦りを覚えないのがセレナ・ヘルウェンディの性格だった。むしろ、初めて実物を見るドラゴンに対して好奇心すら沸く始末だ。

「これはまた、酷くご立腹みたいだね」

「冷静に分析してる場合じゃな〜い!」

「くそッ・・・・・・!」

 悪態をつきながら、レイドは試験官のいる方向を睨みつけた。その眼光の鋭さに試験官や召喚師連盟の役人は一瞬怯む。

「やめなよ、レイド」

「でも、セレナ」

「何を言ったところで、トカゲ君は気が立ってるみたいだし。どちらにせよ、どうにかしないと話にならないでしょ?」

「どうにかって、どうするのさ〜!」

 完全にパニック状態のフェーネと焦るレイドに、セレナ一人だけが冷静だ。
 そうこうしている間にドラゴンは三人を倒すべき敵として認識したようだった。何やらセレナ達へ向かって構えている。

「マズイ、来るぞ」

 レイドは慌てて、呆けたままのフェーネの腕を引っ張り、飛び退った。ほぼ同時に、ドラゴンの口から大きな火球が放たれる。
 近づくほどに感じるその熱は、巻き込まれれば生物は一瞬で燃える前に溶けてしまいそうな程だ。

「危ない、セレナ!」

 フェーネとレイドが叫んだ時には火球はセレナの目前に迫ってきていた。
 セレナは真っ直ぐ火球へと片手を伸ばしたまま、瞑目している。足下は淡い光が立ち上り、まるでそこだけは別世界のように青の髪が緩やかに揺れていた。

「さ、お手並み拝見といきますか」

 火球が一瞬でセレナを呑み込み、会場全体から大きな悲鳴が起こった。
 誰もが絶望的だと思った頃、セレナを包み込んだ炎は急速にうねり出し、彼女の伸ばした手に収束してより一層強い光を放っていた。 セレナは平然と佇みながら、その髪を靡かせる。さも余裕といった様子だ。

「ま、こんなもんか」

 どうやら完全に成体のドラゴンではないらしい。こうも簡単に押さえ込める事を考えると、まだ子どもなのだろう。
 セレナは意識を集中させ、押さえ込んだ炎を自身の魔法へと転換させると、ドラゴンの方へとお返しの如く解き放った。
 炎は矢のような形状で、空気を焼くように轟音をたてて飛んでいく。流石にその炎が自分の吐いた炎よりも強いと悟ったのか、 ドラゴンは慌てて翼をはためかせ中に飛び上がった。ドラゴンに当たることのなかった光線のとも言える矢はリングの壁にぶつかり、衝撃で周辺の壁が半壊する。

「外したか」

「外したか、じゃないわよ! まったく冷や冷やさせないでよね」

「全くだよ。流石にセレナでもやられるかと思ったよ」

「私達に敵う相手なんているはずない。絶対受かってみせる! ・・・・・・なんて言ったのは誰だっけ?」

 セレナはわざと溜息をつきながらフェーネを見遣る。フェーネは唸るしかなかった。その様子に、レイドはぷっと吹き出した。

「まったく、セレナには敵わないなぁ・・・・・・何か策があるんだろ?」

 レイドは腰に下げた剣を抜いて、笑いながら尋ねる。軽々と剣を振り回し、足首を回す様子は非常に頼もしい姿だった。

「ま、五パーセントの『本気』があれば十分なんじゃない?」

「了解。僕らが頑張れば勝てるんだな。援護は頼んだ」

「えぇ〜〜!?」

 セレナの冗談にレイドは笑いながら、大きく跳躍した。空中でドラゴンと打ち合う。あまりの潔い対応に、フェーネは唖然とするしかない。

「ちょっと、ど〜すんのよ!」

「ドラゴンって言っても最下級のグリーンドラゴンだし、見たところ成体一歩手前のお子様だから大丈夫だよ」

「ななな、何が大丈夫なのよ」

 グリーンドラゴンの特徴は翼で飛び回り、口から炎を吐き出すこと。更に、その鋭い爪による攻撃だ。しかし、炎攻撃に関しては上級のブルードラゴンやレッドドラゴンに劣る。 上級類になると岩をも溶かす温度になるが、今回の相手であるグリーンドラゴンでは石を真っ赤にする程度だろう。溶かすほどではない。厄介なのは別の点にある。 ドラゴン族は翼竜や海竜など様々だが、基本的には翼があり強靱な筋肉とどんな攻撃も通さない硬い鱗がある。この鱗が生物最強種族と言われる所以だ。
 しかし幸いなことに、このグリーンドラゴンはまだ成体ではない。つまり、鱗が完全に完成しきっていないのだ。だから、『本気』になれば攻撃は通るかも知れない。

「力でゴリ押ししろって言うの?」

「ま、そういうこと」

「セレナの癖に、ふざけんじゃないわよ!」

「ふざけてないよ。小賢しくて見るだけ退屈して相手するのも面倒なのよりはずっといい。むしろ、こっちの方が好み。相手も所詮はトカゲだしね。トカゲを殺すのに、緻密な策なんていらないでしょ」

 文武両道の鏡、鉄壁の理性、合理的知性の権化。そんなことを様々な方面から言われているセレナだが、面倒くさがり屋で退屈なことが何より嫌いなだけだ。 面倒臭いを極めた結果、合理的判断をして最短の処理をしている。その最短処理が力尽くなら、それはそれでセレナの好みでもある。
 そういう一面をフェーネは知らないわけではない。でも、セレナの天才的なところに尊敬、ある意味信仰していると言っても良い後輩達が、こういう姿をみたら唖然とするに違いないと、毎度思うのだ。
 フェーネが言葉も出なくなってきた所で、セレナは魔法の詠唱に入った。

「ドラゴンを所詮トカゲなんて言えるのは、世の中探してもセレナくらいよ! もう、どうなっても知らないんだから。こうなりゃ、当たって砕けてやるわよ」

 砕けてはいけないと指摘してくれる人はこの状況下ではいなかった。
 セレナに続いて、フェーネも杖を構えて詠唱に入る。一方で、レイドはセレナの言っていた真理に気がついていた。鱗を斬ることは出来なくても、 まず叩き割るくらいはしなければならない。成体でない以上、物理攻撃にはまだ脆いはずだ。魔法攻撃で貫通させるには少し骨が折れるかもしれない。

「フレイムアロー」

 セレナは手元に具現化した炎を纏う弓を構えると、そこから放たれた炎の矢がドラゴンに命中した。流石に、貫通はしないものの一瞬は怯んだ。
 今がチャンスとばかりにレイドは剣を構える。そのチャンスを見逃さなかったのはフェーネも同じだった。

「聖なる力、我らに力を与えん。リィンフォース!」

 フェーネの杖から放たれた光がレイドの剣を包み込むのと、レイドが振りかぶったのはほぼ同時だった。レイドの振るう剣がドラゴンに真っ直ぐ一文字の傷を入れる。 ドラゴンからは黒い血が滲み、僅かにバランスを失うのを見て、フェーネはガッツポーズをした。
 フェーネの得意とする法術の中でも、補助法術と呼ばれる魔法だ。今の場合、レイドへと援助することによって相手に剣が通りやすくなるというものだった。 タイミングが命のこの魔法が成功したことに、フェーネは内心小躍りしたい気持ちになる。練習ではなかなかタイミングが合わずに、怒られてばかりだったのだから。
 まだ戦闘中なのにも関わらず感無量な面持ちのフェーネを見ながら、現実に引き戻すためにセレナはぼそっと呟いた。

「じゃ、そろそろウォーミングアップ終了と言うことで」

「え、ちょっと」

「ここにいるだけじゃ、退屈なんだよね」

 セレナは頑張れとフェーネに目配らせをすると、その場から消えた。本来セレナは中衛である。その位置はレイドとフェーネの間というよりも、どちらともと言うのが正しい。
 フェーネの使う召喚術は水属性だ。フェーネの魔力は高いが、ただでさえ元から殺傷性の低い水魔法でドラゴンの鱗を破れるほどの魔法は持っていない。 援護で法術を使うのが精一杯の所だった。レイドの動きを見ながら援護に努めるしかない。
 レイドの方はというと、ドラゴンの爪と格闘していた。鱗を壊せば魔法も上手く通るようになることは分かっているが、簡単にそれができるはずもない。 下手に動き回ると飛んで逃げるので、少しやりにくい。魔法を使えばドラゴンの飛ぶ高さに届かないわけではないが、やはり空中戦は武器の都合から考えてもレイドには不利だ。

「どうするかな」

「レイド、ちょっと退いてて」

 飛び回るドラゴンを睨みながら着地し、再び向かっていこうとする横からセレナが飛び出す。急に現れたセレナに、レイドは驚いたような顔をするがその様子を見て納得する。
 強い緋色の光を手に集中させ、ドラゴンに向かって跳躍する。魔法をもってすれば、ドラゴンよりも高く飛び上がるなど容易だった。 

「セレナ、何を・・・・・・?」

「ん、落ちてもらおうか」

 光をドラゴンに向けて解き放つ。幾つにも分かれた炎の矢は雨のようにドラゴンへと降り注ぎ、翼を射貫きずたずたにする。翼は軽く炎上し、もがきながら落ちていった。

「滅茶苦茶な威力だな」

 レイドは感嘆としながら、その様子を眺める。思わず見とれてしまう光景だが、まだ決着はついてはいない。止めを刺すべく、ドラゴンへと向かって走り出す。
 一方、ドラゴンはもはや半狂乱の状態だった。狙いを定めることのなく火球を吐き出し、逆にそれが行動範囲を狭めて危険だ。

「聖なる力、その邪悪な力から守り給え。プロテクト!」

 セレナとレイドの二人を光の球体が包み込む。光は炎を退けると空気中に霧散した。フェーネの防御法術である。

「タイミングばっちりっ、だよね?」

「フェーネ! それはいいから、前!」

 レイドの声にはっとして、フェーネは目の前を見た。そこにはさっきまでいなかったはずのドラゴンが目前に迫ってきている。
 火に気を取られていて、二人を援護しなくてはと思って詠唱に入ったが、完全にドラゴンの存在を認識していなかった故の末路だ。

「ど、どうも〜?」

「ぐるあぁぁぁぁああああ!!」

「きゃー! ごめんなさい、ごめんなさい! 許して下さい!!」

「馬鹿!」

 爪が迫ってくる風を感じる。フェーネは本気で死を覚悟して、目を閉じた。しかし、いつまで経っても切り裂かれる感触はない。
 反射的に瞑っていたフェーネが恐る恐る目を開くと、フェーネにドラゴンの爪が掠める直前に、レイドが受け止めていた。

「レイド!」

「いいから、早く逃げろ!」

 フェーネはレイドに言われるままにその場から退散する。ドラゴンと睨み合ったまま、レイドは歯を食いしばった。油断すれば潰されてしまう。
 すると、急にドラゴンはレイドの剣をしっかり掴むと上へと放り投げた。人間の筋力がドラゴンに勝てるわけもなく、レイドの手から離れた大剣が宙を舞う。

「くそ、しまった・・・・・・ッ!」

 レイドはおまけにバランスを崩して、その場に倒れ込んだ。しめたとばかりに再びドラゴンは爪を大きく振りかぶる。この距離では避けることは出来ない。 今度こそ正真正銘、絶体絶命のピンチだった。
 でも、走馬燈なんてものはレイドには浮かばない。

「やっぱ、敵わないな」

「もう少し粘って欲しかったんだけどね」

 セレナの呑気な声がどこからか聞こえてくる―――上だ。
 セレナは見事にレイドの大剣を空中で捕まえるとそのまま上段に構える。そして、重力の勢いそのままに魔力を溜めて振り下ろす。 ドラゴンの爪がレイドに当たるよりも、セレナの剣がドラゴンに達する方が早い。

「閃光龍刃剣」

 煌めく剣はドラゴンの脳天から一直線に地面へと貫通した。骨など関係なく、頭から尻尾まで完全に両断され、ドラゴンが断末魔を上げる。 その光景はドラゴンの頭上に雷が落ちたかのような光景だった。
 ドラゴンの両断面から血とは異なる黒い靄を放って、身体自体が消滅した。それが、ドラゴンが魔物であったことの証である。 この世界において、魔物は皆このような靄を放って消えていく。

「セレナ班、グリーンドラゴン一体を撃破しました!」

 観衆が一斉に歓声を上げた。教師や役人もまさか本当に勝てるとは思っていなかったのか、驚きを隠せないようだ。 勝てないと思っているのなら出さなければいいのにと突っ込みたくなるのは三人とも同じだったが、それよりもドラゴンに勝利した喜びの方が今は大きい。
 レイドのピンチに顔を背けていたフェーネは、アナウンスの声を聞くや否や飛び上がった。

「やったぁぁっ! 勝った勝った!!」

 フェーネが大喜びをするのをよそに、セレナは軽々とレイドの大剣を振るうと溜息をつきながらレイドに手渡した。 尻餅をついたままのレイドも苦笑してそれを受け取る。

「セレナ?」

「本気三パーセントくらいかな。まったく、あの手の面倒臭いだけの相手は嫌いなんだよね。図体だけのお子様トカゲ」

「いつもと比べれば戦闘時間も長かったし、相手も結構粘ってたと思うけどな。お子様トカゲなんて言ったら、可哀想だ」

「トカゲ如きに後れを取ったのは、誰だっけ?」

「そ、それは謝る。でもセレナが普通じゃないだけだと」

 レイドが苦虫をかみつぶしたような顔で目を反らす。
 口ではこう言っているものの、本当は悔しいと思っているのを我慢しているのは目に見て明らかだった。だから、セレナもあまり皮肉を言って虐めるのはやめることにする。
 溜息をつきながらレイドへと手を差し伸べると、一瞬戸惑いながらレイドは手を取った。

「凄くない? ホントに勝っちゃったよ!」

 自分のせいでレイドが窮地に立たされたことなど全く覚えていない様子で、フェーネははしゃぐ。少しは反省したらどうなんだろうか。

「全項目各五点満点の審議の結果、連携5、戦闘力5、撃破時間5の総合15点満点で評価Aとなりました。現在、実技試験は第一位で通過となります」

「よっしゃぁぁっ!」

「アレを相手にして他の班よりも評価を低くするなんて、冗談きついけどな」

 喜ぶフェーネにレイドの呟きなど届いてはいなかった。まだ三つの試験の一つ目を終えただけなのに、もう受かったかのようなはしゃぎ様にレイドも苦笑しながらも、便乗する。 二人の喜びを削ぐような発言は今は慎んでおくとしよう。
 確かに、冗談きついとは言い得て妙だった。
 ドラゴンはイクセリオンでは大陸北部のクリステル山脈奥地で住む稀少生物だ。それ以外のドラゴンはレイスタンスでは龍と呼ばれ、龍神とも呼ばれている。 ドラゴンは崇められる程の神聖な生き物だ。そのドラゴンが魔物化するというのは明らかに異変と呼べる珍事であるはず。
 このドラゴンはクリステル山脈でも人々が行き来することがあるクリソヒルという標高の低い山まで降りてきた凶暴な魔物として捕獲されたという噂のものだったようだが、 縄張りでないところまで下りてくるドラゴンは普通いないはずだ。つまり、それ以前にドラゴンの縄張りである聖地とも言える場所にいた時点で魔物化していたということ。
 イクセリオンにおいて、イリステンドとドラゴンの交流はあまりない。だからどうしても凶暴な生物と勘違いしやすく、この奇妙さに気がつきにくいのかもしれないが。

「セレナー、行こうよー!」

 フェーネの声で我に返ると、首を振って思考を中断する。今考えても仕方がないことだ。
 セレナはフェーネとレイドを追って出口へと向かう。どうやら、セレナが考え事をしている間二人はずっと待っていてくれたらしい。

「もう、さっさと帰ろうよ。今日は祝勝会だ!」

「馬鹿、明日からは筆記試験だろ。勉強しろよ」

「ちょっとくらい良いじゃない」

「合格したら気の済むまでやりなよ」

 笑うフェーネを見ながらセレナは溜息をつくと、ふと背中に悪寒が走った。否、それはどちらかというと痛みに似ている。

 ―――お前さえ、いなければ・・・・・・!

 不穏な風と共に、誰に向けているかも分からない憎悪の声がセレナの耳にのみ届いた。立ち止まって振り返りたくなる気持ちを抑える。

「どうかしたの、セレナ?」

「なんでもないよ」

 今はこの、どうでもいい話を交わすことの方が、心地が良い。


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